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「たいへんよくできました!」

ミュールの本質たる存在、白いミュールがにこやかに、謳うようにそう告げる。

只でさえ幼いミュールの容貌が、髪型と服装、柔らかな表情によって、本当に外見どおりの純粋無垢な少女に見えてしまう。

「何よ、何しに来たの?貴方の出番は無いわよ」

顕在意識である黒いミュールは、眉間に皺を寄せ、羽虫を追い払うように手をひらひらと振る。

「素直じゃない誰かさんの背中を押しに来てあげたのよ。まったく、ホントのホントに、誰に似たのかしらね」

 呆れ顔の白い少女。

こいつは何を言っているのか。

同じ自分でありながら、目の前に立つ白い少女の意図する所がわからない。つい今しがた、自分では考えられないほど素直にクロアに抱かれていたと言うのに。

白い少女は、この世の汚れは何ひとつ知らないとばかりの、雲ひとつ無い晴れやかな笑顔で

「だって貴方、クロアとセックスしたいでしょう?」

とんでもない発言をさらりと言い放った。

場に流れる一瞬の沈黙。

 

最初に噴き出したのはクロアだ。

「な、何てこと言い出すんだミュール!セックスなんて言葉、どこで覚えたんだ!」

顔を真っ赤に染め、白い少女をたしなめる。

「あら、私はミュールの心の本質を司る部分。ミュールが心の奥底で抱いている願望なんて丸わかりよ」

その証拠にほら、とミュールの方に視線を向ける。クロアも釣られて隣を見ると、

顔をこれ以上ないほどに真っ赤に染め上げ、湯気を出しつつ俯いている黒い少女がいた。ぎゅっと握り締めた拳が小さく震えている。

「ミュ、ミュール、大丈夫か?」

クロアが恐る恐る声をかける。

手の震えはだんだんと大きくなり、

「ば、バッカじゃないの!誰がそんな、せ、せ、せっ、くす、なんて、したいわけないじゃない!いい加減なこと言わないで!」

湯気を烈火に変え、咆哮するミュール。

「本当に素直じゃないのね、表向きの私は。さっきまではあんなにかわいかったのに」

溜息をつきつつ、威嚇する猫のような状態のミュールへ軽い足取りで近付いて行く。

クロアはちょっとそこで待っててね、と一声かけると、白い少女は自分と同じ顔の黒い少女に、正面から飛びつくように抱きついた。その勢いに負け、受け止めたミュールもろとも後ろに倒れこむ。そこにはいつの間にセッティングされたのか、ベッド、しかも天蓋付きのやたらと華美な、が。

「ちょ、待ちなさい!何このベッドは!悪趣味ったらないわ!」

押し倒され、もがきながら叫ぶが、すでに時遅し、白い少女にマウントを取られた黒い少女、という構図が出来上がっている。

「貴方に悪趣味だなんて言われたくないわね。これは貴方が望むモノ。心の奥底で夢見焦がれた憧れの顕現よ」

言いながら、ミュールのボディスーツを器用にはだけさせて行く。事の成り行きを呆然と見ているしかないクロアの前に、再びミュールの白い裸身が露わにされる。なだらかな胸、先端に実る桃色の果実は、持ち主の性格を現したかのようにつん、と上を向いている。肉付きの薄い腰から伸びる脚は細くしなやかで、閉じた腿の付け根には、守る物が何もない、綺麗な一本筋が透明な雫を潤ませている。

「ミュールはね、さっきのクロアを気持ちよくさせた行為で、すっかりスイッチ入っちゃってるの。見て、こんなに濡れてるんだよ」

人差し指と中指でミュールの秘裂をまさぐると、にゅちゅっ、と湿った音がした。

「んっ、やっ、いきなり触らないで」

「ミュールはえっちな子だよね。クロアのおちんちんいっぱいいじめて、こぉんなに昂奮しちゃってるんだから」

からかうような口調で責めつつ、指を媚肉の中にゆっくりと埋めていく。

「んあっ、やっ、やめ、て」

さっきまでの怒気はどこへやら、多少抵抗の素振りは見せつつも、自分に覆いかぶさる白い少女にされるがままになっている。白い肌は紅潮し、玉のような汗がぽつぽつと浮かぶ。

白い少女は、相手のどこが感じるのか、正確に把握しているようで、その指先は一切の迷いなくミュールの花弁を、蜜壷を縦横無尽に蹂躙する。それはそうだ。白は黒、黒は白、心も体もひとつのものを分かち合う存在であるのだから。

先ほどまでぴたりと閉じ合わされていた彼女の少女自身は、今やその桃色の粘膜を、外気に晒し始めている。

「うっ、ふっ、あっ、くぅ」

自分に攻め立てられるミュールは、押し寄せる快感を享受しながらも、唇をきゅっと結び、声が漏れるのを堪えている。好きな男に恥ずかしい姿を見せたくない、という彼女なりのプライドが、快楽の赴くままに声を上げさせることを拒んでいた。

「なかなか頑張るわね。でも、ここをこうしたらどうかしら」

ミュールの内壁を擦っていた中指が、秘裂の上部にある、包皮を被った肉芽をきゅっと押しつぶす。

「っく、ふああっ」

そこに触れられた途端、ミュールの腰が小さく跳ね上がり、耐え切れず甘い喘ぎを漏らしてしまう。

「ふふ、そうよ。もっと素直に感じて。クロアを受け入れられるように」

言いながら、空いた手でミュールの乳首をこねくり回す。乳首と陰核、二点の同時攻めに、膣穴からは真新しい愛液が小さな痙攣と共にとめどなく溢れ出る。

「んっ、あっ、ああっ、だめっ」

もう声を抑えることもできない。自分を責める指の動きに合わせて、小鳥が啼くようにリズミカルに喘ぐ。

「そろそろ準備OKみたいね」

指を引き抜き、愛液を舌で舐め取ると、ミュールの耳元に顔を近づけ、そっと囁く。

「ねぇ、ミュール、クロアとひとつになりたいでしょう?心も、体も、クロアとひとつに。それはとっても素晴らしい、とっても気持ちの良いことなのよ」

「クロアと、こころも、からだも、ひとつに」

指技にすっかり毒気を抜かれたミュールが、うわ言のように続けて呟く。顔は上気しきっており、目尻には涙まで浮かべている。

「そう、ね。なりたいわ。私、クロアと、ひとつに」

クロアをもっと深く感じたい。

それがミュールの心からの願いだった。

白い少女によりほぐされた体と心が、今、改めてクロアを、愛する人を受け入れようとしている。

「だ、そうよ。聞くまでもないとは思うけど、ミュールを抱いてくれるよね?」

黒と白のミュールのあられもない姿をじっと見ているしかなかったクロアだが、その心はすでに定まっていた。

ミュールを抱く。

それが彼女のパートナーとして、彼女を愛すると誓った者として、為すべきこと、と。

何より、あのように素直に喘ぐミュールの姿などを見せつけられてしまっては、彼の男性自身が反応しないわけがない。

「ああ、もちろんだ。俺はミュールを抱く」

そうはっきりと答え、自分も衣服を脱ぎ捨てて行く。

「ありがと。それじゃ邪魔者は消えるから、私をよろしくね、クロア」

白いミュールは言うと、現れた時と同様、笑みを浮かばたまま、眩い光とともに姿を消したのだった。

「それと、たまには『私』とも遊んでね!」

 

残されたのは、クロアと、ぐったりとベッドに横たわるミュールの二人。ミュールはまた恥ずかしさが戻ってきたのか、うつ伏せになり、枕に顔を押し付けている。かわいいお尻が丸見えになってしまっているのだが、敢えて触れないでおこう。

「それじゃあ、そっちに行くぞ、ミュール」

改めて声をかける。

ミュールは一瞬悔しそうな顔をすると、

「ちっ。まぁ、その、き、きて、いいわよ」

顔を埋めたまま舌打ち混じりに答える。彼女のできる精一杯の虚勢。

なかなかに先行き不安であるが、ここがコスモスフィアでよかった、と実感するクロアであった。コスモスフィアでは、想いの強さがそのまま力となる。自分の抱くミュールへの想いを、そのまま彼女へぶつければいいだけだ。

もうミュールを不安にさせたくない。

クロアは、ベッドに上がり、うつ伏せになったままのミュールへと近付く。すでにクロアも全裸だ。

ちらりと顔だけ振り向いたミュールは、そこで驚愕に目を見開く。

「貴方、さっきの巨大さは魔法のせいじゃなかったのね」

ミュールは先ほどの行為の記憶と目の前のモノとを比べつつ、溜息混じりに、しかし目は離さない。やはり巨塔だ、と戦慄する。

「ミュールが悪いんだぞ。きみがあまりにかわいい声で啼くから」

「くっ、貴方、照れるってことを知らないの。そんなクサい台詞を躊躇なく吐くなんて」

顔だけクロアの方に向けたまま、半眼で切り返す。が、顔は林檎のように真っ赤で、棘もほとんど感じられない。

クロアはミュールを覆うように身を重ね、うつ伏せのままのミュールの唇に自らの唇を軽く触れさせた。小鳥が啄ばむようなキス。何度も、何度も繰り返す。

ミュールの唇の柔らかさと温かさが心地よい。

「キス、こんなに沢山することになるなんて、思っても見なかった」

とろんとした表情でミュールは目を伏せる。

「そうだな。でも、もっと深く、ミュールを感じさせてくれ」

クロアはもう一度ミュールに唇を押し当てると、唇を開き、舌で彼女の唇をつつく。それに応え、ミュールの唇が僅かに開かれる。クロアの舌はそこに滑り込み、ミュールの唇を、粘膜を味わう。

ミュールもそれに合わせ、おっかなびっくりながら自分の舌を突き出す。

ミュールが応えてくれた。クロアはそれを喜びながら、突き出された舌を唇で挟み、軽く吸う。

「んん、ふぅ、ふあぅ」

自分の舌を吸われるという初めての行為にミュールが思わず声を漏らす。

なにこれ、気持ちいい。

それでミュールにも火がついたのか、互いに激しく舌と舌を絡め合い、唇の裏、歯を舌で味わう。舌を伝って唾液が交換される。

無限に続くかのように思えたキスの時間。互いの唇をちゅっと吸い離し、顔と顔が僅かに離れる。

「クロア、貴方、キスは初めてなのよね」

「さっきの儀式を除けば、な」

それにしては舌の動きが積極的かつ巧みだった。自分の知らないことを知っている年下の男に対して何となく悔しさを感じながらも、ミュールの体の熱源は、唇と舌への愛撫によって更なる快楽を求め疼き始めている。

「ミュール、俺に任せてくれ」

上半身を起こすと、クロアはミュールの背中の長い黒髪を丁寧に払うと、現れたうなじに軽くキスした後、背筋に舌を走らせた。

「ひゃうっ」

突然背中を走り抜けた刺激に、思わず変な声を出してしまう。

「背中、汗の味がするな」

「それはっ、さっき私に色々やられた時に、その」

いちいち感想を口にするな、と。

背中を舐めたクロアの舌は、その先にあるお尻へと辿り着く。

「ミュール、ちょっとお尻をあげて」

「な、何をする気よ」

訝しがりながらも、おずおずとヒップを高く上げる。

これでは大事な所が全部クロアに見られてしまう。

高く掲げられたお尻は、小ぶりながらも張りがあり、美しい稜線を描いている。その間にひっそりと咲く秘裂からは透明な蜜が垂れ、てらてらと光っている。

クロアは、円を描くように片方ずつくるりとお尻を舐め回すと、そのままそっとその秘裂に口先を埋めた。

「ひっ、あっ」

ミュールの体がびくんと跳ね上がるとともに、驚きと快感が入り混じった声が上がる。

クロアは唇と鼻先でミュールの淫唇を掻き分けると、すでにほぐれきった膣穴に、先を尖らせた舌を突き入れた。熱く蒸れた雌の匂いが味覚と嗅覚を支配する。

ミュールの膣内の襞を舌でなぞり、天井部をノックするようにつつき上げる。

すっかり勃起し、包皮からむき出した淫核を、唇で吸い上げ、舌先で押しつぶす。

空いている両手で尻たぶをマッサージするようにゆっくりと、時に激しく揉みしだく。

「やめ、ク、ロア、そんなところ、舐めないで。んう、あっ、あっ、っああ」

最早言葉でもほとんど抵抗のできないミュール。クロアに舐められ、吸われる度に腰が大きく跳ねる。愛液はとめどなく溢れ、ミュールの内腿を、クロアの口元をべとべとに塗らしている。

そろそろかな、とクロアはジャクリのお尻から顔を離す。

ミュールはお尻を掲げた格好のまま荒い息をつきながら、虚ろな視線をクロアに向けるだけだ。

「ミュール、そろそろ挿れるぞ」

 

挿れる。

ひとつになる。

クロアと、ひとつに。

最後の最後くらいは、素直に返事をしたい。

プライドも虚勢もない、ありのままの自分で。

そう思えたからこそ、

「ええ、ひとつになりましょう、クロア」

今度は、素直に言えた。

「俺も、ミュールとひとつになりたい」

クロアはミュールを背後から抱きしめるよう身を寄せると、すっかり固くなった己自身を、ミュールの膣口にあてがった。

「もしかしたら痛いかも知れない。ごめんな」

「謝らないで。痛いのも、苦しいのも、全部、貴方からなら受け入れられるわ」

全幅の信頼。

この人であれば、何をされても大丈夫。

私を愛してくれているから、大丈夫。

痛いことも、苦しいことも、嬉しいことも、楽しいことも、全部分かちあって行くのだから。

 

次の瞬間、クロアはミュールの膣内へ一息で這入ってきた。

途中、何かの抵抗を感じたが、ミュールのためにも躊躇せず一気に奥まで突き入れた。

「いっ、く、あああっ」

自分の体が貫かれるという初めての体験に、ミュールは涙をこぼしながら耐える。

「全、部、入ったぞ。大丈夫か、ミュール」

クロアも、ミュールの膣内の熱さと狭さ、自身に絡みつく無数の襞襞に意識を持って行かれそうになりながら、ミュールを気遣う。

 

全部入った。

クロアとひとつになれたことの嬉しさに、苦痛とは違う涙を一筋流し、

「大丈夫よ、クロアの好きなように動いて。貴方を感じさせて」

振り向きながら、告げる。

 

「わかった」

奥まで入っていた肉棒を、入れる時と同様、一気に引き出す。ミュールの媚肉がめくれ、愛液と血に塗れた肉竿がクロアの目に入る。

もう、大丈夫か、とは聞かない。

ごめん、とも謝らない。

言うならば、それは、

「ありがとう、ミュール」

受け入れてくれた、感謝の言葉。

「私も、……ありがとう」

 

そして、クロアの抽出が始まった。

入れて出すだけの単純な行為だが、速度を変え、リズムを変え、角度を変えてミュールの膣内を突き進む。

「んあっ、あっ、あっ、ああっ、ああんっ」

クロアが突くリズムに合わせ、ミュールは謳う。

戦いのためでも、人のためでもない、初めて、自分のために謳う詩。

「き、もちいいっ、きもちいいわっ、クロアっ」

「くっ、ああ、俺もだ、ミュールっ」

クロアも一心不乱に腰を叩きつける。腰と尻のぶつかり合う音。その度に弾ける水音。

「貴方が、貴方の想いが、私の中に注がれてくるっ、熱くて、あったかくて、すごく、切ないのっ」

クロアが自分を想う心、自分を愛する心、自分を受け入れてくれる心、自分とともに生きて行きたいという心、それぞれの心が質量を持った想いの力としてミュールの中に広がっていく。

(これが、幸せ、って奴なのかしらね)

ミュールは心の中で独り言つ。

クロアに促され、体勢を変える。

彼の顔が、胸板が、自分の上にある。

自分の顔が、胸が、彼の下にある。

目と目が合い、どちらからともなく唇を貪り合う。

彼が腰を打ち付ける速度が徐々に徐々に早まっていく。

彼の指が、胸を、その頂を、痛いくらいに強く愛撫する。

そのまま下腹部へと指はスライドし、自分の臍の下、刻印のように浮き出たインストールポイントに触れる。

「っ、ひああああああああああああああっ」

今までで一番長く高い歌声が響き渡る。

頭が真っ白になる。

もう彼の顔しか見えない。

 

クロアはミュールのインストールポイントから手を離すと、ミュールの背中に両手を回す。それに応えるように、ミュールもクロアの背中を抱きしめる。

ミュールの唇に、頬に、額に、首筋に、鎖骨に、胸に、あらゆる所に口づける。

できるだけ多くの箇所で触れ合っていたい。

熱い塊が、下腹の奥からせり上がって来るのを感じる。

ミュールを抱きしめる両手に力を込めると、ミュールはクロアの耳元へ唇を近づけ、その耳たぶを舐め、食んだ。

クロアはミュールを抱しめたまま、限界まで加速し、

「いくぞ、ミュール!」

ミュールの最奥にありったけの精を、

想いの丈を、

全てぶちまけ、

果てた。

 

 

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